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チンパンジーのTVバラエティ番組・ショーへの利用廃絶に向けて

2012年11月17~18日に札幌で開催された第15回SAGAシンポジウムの世話人会において、さる2012年9月6日に阿蘇カドリー・ドミニオン(熊本県)で発生した、チンパンジー・パンくんがショーに出演後、研修生に噛みついてケガをさせた事故について議論となりました。

SAGAでは、2006年12月4日に「チンパンジーのTVバラエティ等における使用に関する要望書」を同園に送付し、バラエティ番組やショーなどへのチンパンジー出演が、動物福祉の観点からはもちろん、学術的・教育的にも不適切であることを指摘しました。しかし、同園からは誠意ある対応がありませんでした。事故の詳細はつまびらかにされていませんが、阿蘇カドリー・ドミニオンがチンパンジー本来の姿をよく理解せず、その付き合い方や飼育方法を間違っていたことが、今回の事故の遠因であることは否定できないと私たちは考えます。

一方、今回の世話人会で議論の中心となったのは、事故そのものもさることながら、事故発生後の報道の内容についてでした。事故に関する記事のほとんどで、「凶暴」「暴れる」「襲う」などの文字が乱れとんでいます。また、「研修生をメスとして見ていた」「6~7歳を超えるとなかなか感情を保てなくなる」などの表現からは、まるでチンパンジーが本質的に残虐な動物であるかのような印象を受けます。チンパンジーのオスが、人間の女性をチンパンジーのメスと誤認して襲いかかるというような話は、ハリウッド映画ではあり得ても、現実にはとうてい起こり得ないことです。そもそも、野生のチンパンジーのオスは、交尾のためにメスに襲いかかったりなどしません。チンパンジーは、100個体を超すこともある大きな社会集団の中で、常に周辺の仲間の「空気を読み」ながら暮らす繊細な動物ですから、「年齢を重ねることで感情を保てなくなる」ようでは生きていけません。たしかに、野生チンパンジーは時に激しい攻撃性を示すことがあります。しかし、それをもってチンパンジーを「凶暴」と形容しようとするなら、その前に「ヒトの次に」という但し書きをつけなくてはならないでしょう。また、「人工保育なので他の個体より人に親しんでいるはずなのに」という記事もありましたが、チンパンジーの飼育の現場をよく知る立場から言えば明らかな間違いです。わたしたちは、こうした不正確な報道や誤った理解が社会や教育に及ぼす悪影響を懸念しています。報道機関の方々には、ぜひとも正確な情報に基づいた適切な報道をお願いしたいと思います。

SAGAは多様な考えを尊重し、いろいろな観点から意見交換をおこなう場ですが、上掲の要望書を踏まえ、あえて本件についてのわたしたちの見解を表明する必要があると考えました。同時に、私たち自身も、チンパンジーをはじめとする大型類人猿や、そのほかの動物に関して、科学的知見に基づく正確な情報発信に力を入れてゆく必要性を強く感じています。

最後になりましたが、この度の事故でケガをされた研修生の方及びご家族に心よりお見舞い申し上げます。

SAGAでは本問題を重要事項として捉えていましたが、事故直後の拙速な対応は控え、正確な情報収集に基づく議論が必要だと考え、世話人会での議論を経た上での声明発表となったことを付記します。

2012年11月19日
SAGA世話人会一同