エンリッチメントって何だろう?

「動物福祉の立場から、飼育動物の“幸福な暮らし”を実現するための具体的な方策」です。 飼育環境は単純で単調になりがちです。そういった環境にくふうを加えて、環境を豊かで充実したものに改善する試みのことです。 環境エンリッチメントにはケージのサイズを大きくするといったものから、給餌回数を増やす、給餌方法をくふうする、おもちゃを与える、複数の個体を一緒に飼う、人間が相手になって遊ぶ、など様々な種類があります。それをどのような形で進めていくかは、飼育する各々の施設で検討し、その状況に合った最適なものを選ぶべきでしょう。

動物福祉(animal welfare)とは
「人間のためになるという目標を満たすように動物が使われるのはやむを得ないが、その動物が被る痛みや苦しみは最小限に抑えなければならない」という考え方です。 よく似た言葉で「動物の生きる権利(animal right)」というのがあります。これは、人間以外の動物にも生きる権利や実験されない権利、飼育されない権利があるという考え方です。たとえ人間のためになるとはいえ、こうした動物の使用をまったく認めていないという点で、上記の動物福祉の視点とは異なっています(F.M.Loew 1991)。これらの言葉の定義はあいまいなことも多く、混同して使用されることもあります。

幸福な暮らし(心理学的幸福・psychological well-being)とは
動物福祉という立場から見て、実現すべき目標を「幸福な暮らし」と表現します。飼育動物について、その動物の身体的な健康や衛生だけでなく「心」も重視されなければいけない、心身ともに健全な暮らしがあるという考え方です。そういう意味で、「幸福な暮らし」の基本はWHOが定義する意味での「健康」であると考えられます。ここで言う「健康」とは、「単に病気にかかっていないとか衰弱していないということはでなく、身体的、精神的、社会的にみて良い状態にあること」と定義できます。

飼育環境の問題点
現在、多くの動物が、家畜や動物園の動物、実験動物などとして人間の手で飼育されています。
しかしこれらの飼育動物では、
  • 繁殖障害: 繁殖行動ができない、子育てができないなど
  • 発育障害: 脳が正常に発育しない、正常な体重増加が見られないなど
  • 異常行動(abnormal behavior):
        常同行動(stereotypic behaviors, 意味もなく同じ事を繰り返す行動)
        糞食(coprophagia, 糞を食べたり、尿をなめる行動)
        吐き戻し(regurgitation, 一度食べた食べ物を吐き戻し、再び食べる行動)
といった異常が観察されます。

その原因として、その動物の飼育環境(物理的環境のみならず、社会的・栄養的な環境も含む)が適当でないことが考えられます。飼育環境に、ほんの少しのくふうを加えるだけで、これらの問題が改善されることも少なくありません。 近年は、動物福祉の考えが普及し、動物に心理的苦痛を与えないためにも、飼育環境の改善は必要とされています。つまり人間の場合と同様に、飼育動物の生活の質(QOL: Quality of Life)を向上させる努力がなされるべきでしょう。

Our Goal より幸せなくらしを追い求めて

行動目録を野生のそれに近づける

一般に、飼育下の個体の行動レパートリー/行動目録は、野生下のそれに比べてかなり少なくなっています。その原因は、飼育下では手に入るものや利用可能な空間が少ないからでしょう。また逆に、飼育下でしか見られない、檻なめや吐き戻しといった行動も見られます。 そこで、飼育環境に木の葉を入れたとしましょう。ベッド作りの行動が見られるようになり、檻なめの行動が見られなくかもしれません。もしそうだとしたら、飼育環境に木の葉を入れることでその種が本来持っている行動のレパートリーに近づいたことになり、環境エンリッチメントとして効果があったと評価できlます。

行動の時間配分を野生のそれに近づける

例えば、人間を含め動物の生命維持のために重要な行動の1つである採食行動を取り上げ、考えてみましょう。多くの動物は、活動時間の多くを採食行動(餌を求めての移動、探索、採餌行動を含む)に費やしています。例えばチンパンジーでは日中の約半分の時間を採食行動に費やしています。しかし、飼育下では餌は1日に1回か2回で、動物はすぐに食べ物を平らげてしまうのではないでしょうか。また餌の種類は少なく、それらを見つけるために探し回ったり移動する必要もありません。こうして採食時間が極端に少ないため、1日の行動の時間配分が歪み、何もしないで退屈そうに過ごす時間が長くなると思われます。

もし、1日1回の食事を2回ないし3回、4回と増やすことで採食行動に費やす時間を延ばせば、退屈そうにしている時間や異常行動の時間の割合が減少するかもしれません。それはその種が本来持っている行動の時間配分に近づいたことになるので、環境エンリッチメントとして効果があったといえるでしょう。

参考文献
当ページの作成にあたっては、以下の文献を参考にさせていただきました。

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